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弥生の旅立6-2
3日間の自宅謹慎の後、常務の篠原に呼ばれた。
「常務、早瀬です。」
早瀬は常務室のドアをノックして、名乗った。
「ああ、入れ」
稔は、中に入ると、とりあえず、頭を下げた。
「このたびは、大変ご迷惑をおかけしました。」
「ああ、迷惑だ」
稔は、篠原が嫌いだ。
このストレートな物言いが耐えられないのだ。
思わず、拳を握りしめる。
「君の処分だが…、その前に辞表を出すなら受け取るぞ。どうだ?くびだと言われても文句の言いようがないよな。違うか?」
「くびなんですか?」
「そうなりたいか?」
篠原は、机の上に数枚のDVDを並べた。
「これは君が販売しているものだね」
見覚えのあるDVD。
確かに稔が撮り、編集も自分がしたが、サイトの運営主体は自分ではない。
「どういうことですか?」
稔はとぼけた。
「身に覚えは?」
とぼけるのは簡単だが、もし篠原が何か証拠を握っているとしたら、下手に否定は出来ない。
「なくはないです。わたしの知り合いがやっているサイトです」
「ほう、知り合い…ね。で、自分はかかわってないと?」
「いえ、編集を頼まれたことはあります」
「編集?それだけかね。自分で撮ったことは?」
「それもなくはないですが、どちらにしてもわたしのプライベートです」
「わたしも君のプライベートには興味はない。ただ、それが犯罪となると話は別だ」
「犯罪?」
「ほとんどがレイプものだが…」
「まさか、本当にレイプしてるわけじゃないですよ。ちゃんと了解を得て、契約も交わしてます」
「契約も?」
「もちろんですよ。後でレイプだの何だのって訴えられちゃ迷惑なんで…」
「ほう、編集や撮影を手伝っただけにしてはずいぶん関わりが深そうだが…」
「いえ…」
稔は、返事に窮した。
「じゃぁ、こっちはどうだ?」
篠原はさらに数枚のDVDを並べた。
「どうしてそれが…」
公には販売していないDVD。
稔が弥生にしたような本当のレイプや女子高生のもの、中には中学生のものもある。
麻子の部屋に保管してあったものだ。
「女子高生は、犯罪だ。同意や契約など関係ない」
「まさか…、コスプレですよ。本当の女子高生じゃないですよ」
これが篠原の手元にあると言うことは、麻子がすべてを話した可能性が高い。
稔は追い詰められた。
「君の奥さんはレイプだと言ってるが…」
篠原が手に持っているのは、弥生を犯したときのビデオだ。
「レイプって…、夫婦ですよ」
「夫婦だろうと兄妹だろうと、レイプはレイプだ」
「そりゃ、そうですが、弥生がわたしを訴えるとでも?」
「さぁ、それは知らん」
「わたしは別に悪いことはしてません」
「痴漢はれっきとした犯罪だ。違うかね?」
稔は、言葉がなかった。
注意して答えたつもりだが、結果は、単に篠原に誘導されただけだった。
「君は、女子高生に痴漢をした」
篠原は畳みかける。
「さらに、ここに、君は犯罪ではないと言う映像がある」
篠原が何を言いたいのかわかっている。
稔はスーツのうちポケットに手をやった。
「辞表を出せば、受け取ってもらえますか?」
稔は、篠原の言葉をさえぎった。
「ああ、辞表を出すなら、処分は下さない。ただし、退職金は出ないと思ってくれ」
稔は、黙って辞表を差し出した。
「君は竹内部長とは深い付き合いのようだから話すが、彼も今日づけで退職したよ」
「そうですか…」
「それから、念のために言っておくが、君らのサイドビジネスの件は瀬戸君や君の奥さんから聞いたわけじゃない。この話をわたしのところに持ち込んできたのは竹内君の奥さんだ」
「まさか?」
「まさか…何だね?」
「いえ」
今さらここで何を言っても無駄だ。
稔は口を閉ざした。
篠原は、机の上から何枚かのDVDを拾い出した。
「部長の奥さんのと君の奥さんのとはそれぞれ彼女らに預ける。彼女たちがこれをどうするかは知らないが、もし、裁判沙汰になった場合、ここにある他のDVDもみんな公になると思ってくれ。わたしは君達をかばう気はない。…一応、忠告だ」
“いつでもお前を犯罪者にできるぞ”という忠告だ。
「これで失礼します。いいですか?」
稔はとにかく早くここを出たかった。

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