弥生の旅立5-2
体調不良を理由に会社を休んだ弥生は、常務の篠原に電話で呼び出された。
篠原は、外部から派遣されている役員で、今回、竹内が代表に就任する予定の新会社も篠原の会社との共同出資だ。
昨日、竹内と会ったホテルのラウンジ、篠原は、先に来ていた。
「すいませんね。休んでいるのに呼び出して」
「いいえ。こちらこそすいません、お待ちになりました?」
「いや、わたしのほうが早すぎたんだ。気にしないでください」
弥生が座ろうとすると、篠原の視線が、弥生の薄いベージュのミニのタイトスカートに移った。
弥生は深く座って、少しだけお尻を前にずらす。
色白の弥生の太ももの付け根まであらわになった。
今日も、下には何も穿いてはいない。
真希にそうしろといわれた。
篠原が少し前に乗り出すのがわかる。
篠原の露骨な視線に弥生は少したじろいだが、真希の指示だ、これでいいのだろう。
あらためて腰を浮かし、もう一度、座りなおした。
「さっそくだけど、人事のほうから、君の退職届が郵送されてきたと聞いたものでね。できたら、どういうことなのか話してもらえないかと思って…」
弥生は、退職届を人事部に直接郵送していた。
「竹内部長が受け取ってくれませんので」
「受け取らない?詳しく話してもらえないか?」
どこからどう話したらいいのか…
「セクハラされています。竹内部長に…」
「セクハラ?」
こう言えば、当然聞かれる。
話し出したのは、自分だ、後には戻れない。
弥生は、思い切って、事実をありのままに話した。
会社の資料室でオナニーしたこと
それが監視カメラで録画され、それを竹内が持っていること
夫には女がいて、夫婦の関係はないこと
自分の浮気を竹内に知られたこと
「ごめんなさいね。話にくいことを聞いてしまって…。実は、わたしのところにこんなものが届いてね」
篠原は、DVDを2枚テーブルに置いた。
「これは、君が資料室でしているのを撮ったやつ。こっちは、今朝届けられたものだが、場所はここかな?竹内君と君との映像だ」
「ご覧になったんですか?それ?」
「あぁ、まぁ」
篠原は、ばつが悪そうにコーヒーをすすった。
「資料室の監視カメラは竹内君が勝手にやったものというか、盗撮みたいなもので、会社として設置したものじゃない」
篠原は、無用な説明を加えて話の矛先を変えた。
「他にもね、ちょっと外部の方から、君のご主人と竹内部長に関して、いろいろ指摘を受けてね」
「主人も?」
「ええ」
篠原はさらに何枚かDVDを取り出した。
「あるサイトで、売られているものなんだが、どうもそのサイトの運営者がご主人らしい。レイプとか、中には女子高生とか中学生とか…」
「わたしも主人にレイプされました」
「レイプ?ご主人に…」
「夫婦でもレイプはレイプです」
「すいません。そういう意味では…」
コーヒーを飲み干した篠原は、コップの水を少しだけ口に含んだ。
「で、どうするつもりですか?」
「え?」
「セクハラされて、あなたが会社を辞める…それだけですか?」
弥生はしばらく考えて
「何か報いはあってほしいとは思います」
「報い…ですか?」
弥生はうなずいた。
「新会社の社長というポストはなくなりますが…、そのくらいじゃだめですか?」
「クビには…なりませんか?」
「クビねぇ…」
篠原は、またコップの水を口に運んだ。
「竹内のセクハラを訴えますか?」
「訴える?」
「わたしの立場上をそれをすすめるわけにはいきませんが…」
弥生は首を振った。
「訴える気はありません」
「どうしても彼をクビにしたい?」
あらためて篠原は弥生に聞いた。
弥生はうなずいた。
「現行犯なら、言い逃れはできないかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「竹内がセクハラしている現場を押さえられれば、即クビというより、辞めざるを得ないでしょう」
「でも、自主退職では、退職金とか出るんじゃないですか?」
「それは被害者への慰謝料、示談金というので、どうですか?」
これは、篠原から弥生への提案だった。
「示談金?」
「あなたも会社を辞めたら、失礼だけど、お金もいるでしょう?」
「わたし、もう次の仕事決まってるんです」
弥生は、さらに前にお尻をずらし、少し足を開いて見せた。
篠原の視線が、弥生の顔と股間をいったりきたりする。
「そうですか?で、どんなお仕事ですか」
「知り合いのモデル事務所です」
「ほぉ、真希さんのところに?」
篠原の口から真希の名前が出て弥生は驚いた。
「常務、真希さんをご存知なんですか?」
「うちのボスが絵を描いてましてね、真希さんのところにモデルを依頼してました。わたしもイベントなんかで彼女の事務所を何度か使ったことがあります。今回、このDVDをわたしのところに持ち込んできたのも彼女です。ご存知だとは思いますが…」
「すいません」
弥生は謝った。
「あなたが謝ることじゃない」
コップの水も空だ。
「今の話、どうですか?」
弥生はまだ返事をしていなかった。
「現行犯…ですね?」
弥生は、再度確認した。
現行犯ということは、竹内にセクハラされている現場を誰かに見られるということだ。
「そこに来るのは常務ですか?」
篠原がうなずく。
常務が直接、弥生のためにそんなことまでやってくれると言うのだ。
断れるはずもない。
弥生はうなずいた。
「で、明日、出社しますか?」
話は急だ。
「明日ですか?」
篠原がうなずく。
「監視カメラを彼の部屋に設置しておきますが、ずっと監視しているわけにはいかないので、彼の部屋に呼ばれたら、わたしに電話してください」
そう言って篠原が立ち上がり、弥生も続いた。

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